Cariotのコネクテッドなブログ

地図タイルがすべてをつなぐ

世界は 256×256ピクセルでできています。

何のことかというと、地図の世界の話です。
きっかけは、2005年の Googleマップの登場でした。それまでインターネットで地図サービスを行うときには、1枚の大きな地図を画像として提供するのではなく、小さな画像に切り分けて小分けに提供することは行われてきましたが、その仕様がまちまちでした。用いる投影法も違えば、縮尺の概念も、小分けに切り分けるサイズもバラバラ。

これでは、異なる地図サービス同士を重ねることができません。ウェブ地図の断絶が起きていました。

そんな折に、Googleマップの登場です。
2005年の衝撃的なデビューの裏側で、軽快に地図画像を提供する Googleの地図タイルの仕組みが、当時の空間情報エンジニアを驚かせました。
そこには、これまでの常識を覆すGoogleらしい仕様の削ぎ落としがあったのです。

●世界地図の常識にとらわれなかったGoogleマップ

まず驚いたのは、Googleは「地球が丸い」と再定義したことです。
それまでの測地学・地図学の世界では、自転による遠心力によって、地球は赤道方向に膨らんだ回転楕円体であることが常識でした。
むしろジオイドという概念も含め、より正確な地球の形を定義する事を良しとする風潮の中で、Googleはあえて、地球は赤道方向も極方向も同じ半径を持つ球体であると言い切ったのです。
これにはおそらく2つの意味が込められていると思います。

1つは回転楕円体よりも球体のほうが計算がしやすい(=計算時間が早く済む)こと。
もう1つは赤道半径を地球の半径とみなすと、その弊害(=誤差)が大きくなるのは北極・南極といった人がほとんど生活していないエリアであること。

これらの判断から、おそらくGoogleは地球を回転楕円体として扱うよりも球体として扱ったほうがメリットが大きいと判断したのでしょう。

次に驚いたこととして、世界は 256×256 ピクセルの画像でできていると決めたことです。
それまでの世界地図の常識から言っても、メルカトル図法を用いながら世界は正方形で表現できると言い切った気持ちよさは驚きを持って迎えられました。
この意図には、さきほどのほとんど人が生活していない北極・南極エリアは無視するという強い意思が表れています。

最後に1/25000といった縮尺単位を採用しなかったことです。Googleは独自にZoomレベルと呼ばれるタイル縮尺を定義し、256×256 ピクセルの1枚の画像で世界を収めた縮尺をZoomレベル0、256×256 ピクセルの4枚の画像で世界を収めた縮尺をZoomレベル1、以降 256×256 ピクセルの単位画像1枚を縦横半分ずつ、4分割して拡大する度にZoomレベルを+1していくタイル縮尺によって、地球上の地図は縮尺が0〜22前後とおよそ23種類の縮尺で表現できると定義しました。

 

Maptiler

地図タイル Zoomレベル1の世界は全体で 512×512ピクセルでできていて、4枚のタイル画像によって構成されています。(MapTilerウェブサイト http://www.maptiler.org/google-maps-coordinates-tile-bounds-projection/ より引用)

●デファクトスタンダードとなっているXYZ地図タイル

このGoogleが提案した新しいウェブ地図の仕様は、単位タイルの番号付けルールから通称 XYZ地図タイルと呼ばれています。その仕組みを解説しましょう。
ここで言うXとは経度方向のタイル画像の位置。Yは緯度方向のタイル画像の位置。いずれも整数で表現されます。カウントを開始する原点タイルはGoogleの場合北西の角。世界地図の経度中心はイギリスのグリニッジ天文台を通る子午線となります。

ややこしい話ですので、上の画像で説明してみましょう。Zoomレベル1は縦横2枚、計4枚のタイル画像で構成されています。このうち北米大陸からグリーンランドが含まれるタイルが原点タイル(0,0)になります。向かって右隣のユーラシア大陸がほぼ収まるタイル画像が(1,0)、南米大陸が収まるタイル画像が(0,1)、そして南東角のオーストラリア大陸やアフリカ大陸南側が含まれるタイル画像が(1,1)という具合に、ナンバリングされます。これはXYです。

それではZは何でしょうか?高さ? いえ、これがタイル縮尺のZoomレベルです。

地図タイルXYZが (0,0,0)で、256×256ピクセルの世界地図、(0,0,1)で、256×256ピクセルの北米地図、(3,1,2)で、256×256ピクセルの日本全域及び周辺のアジア諸国。
極を除くほぼすべての地球上は、このXYZタイルの番号で、その縮尺と場所が指定できるようになりました。

そして、なにより斬新だったこのGoogleによる地図タイルの仕様は、それまで独自の地図タイルを使っていた電子国土ウェブやマピオンなど多くのウェブ地図サービスが、XYZ地図タイルに乗り換えていったのです。

例えば、国土地理院が現在提供している地理院地図は、ウェブメルカトルという表現でXYZ地図タイルを採用しています。世界中の地図ボランティアによって運営されているオープンストリートマップの地図もその多くがXYZ地図タイルで配信されています。Yahoo!マップやApple maps、マイクロソフトのBing mapsもすべて XYZ地図タイルを採用するといった具合に、もはやウェブ地図サービスのデファクトスタンダードとして定着しました。いまでは日本の国土地理院がXYZ地図タイル技術の最先端を実装するスタートアップ企業のようなスピード感で世界的にも存在感がでてきています。

 

地理院
図. 地理院地図のタイル一覧サイトには、XYZタイルのURLがすべて記載されて、他サービスとの連携を意識した仕組みとなっています。(国土地理院ウェブサイト https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html より引用

前回ご紹介したオフラインマップの地図サービスも、そのほとんどが、XYZ地図タイルを端末側に保存することで、いつでも手元に置いてある地図タイルを読み出すことでオフラインマップの機能を実現しています。

XYZ地図タイルという仕組みを取り入れることで、相互に地図の重ね合わせが可能となり、オフラインマップ以外にも新たな地図サービスが続々と産まれています。
まさに、地図タイルがすべてをつなぐ基礎技術として広がり、次世代の地図タイルの仕組みも見え隠れしてきていますが、その話はまた別の機会に。

furuhashi 古橋 大地 (Furuhashi Taichi) 氏 プロフィール
青山学院大学 教授、マップコンシェルジュ株式会社 代表、 OpenStreetMap Foundation Japan 理事、京都大学 防災研究所 客員教授、OSGeo財団日本支部理事。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに注力。GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、市民参加型地図づくりの未来実現に向けフィールドを駆け巡っている。