実運送体制管理簿とは?義務化の背景や作成ルール

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こんにちは。Cariot(キャリオット)ブログ編集部です。
本記事では、2024年問題に伴い義務化された「実運送体制管理簿」とは何かを詳しく解説するとともに、実運送体制管理簿の作成方法や必要事項、関連する用語など、物流業界の透明性向上と適正運賃確保に必要な情報を網羅的に紹介します。
また、物流の可視化、適正な運賃確保、業界全体の健全化など、実運送体制管理簿がもたらす具体的な変化についてもご紹介します。
さらに、作成が不要となるケースや下請け事業者への影響、用語についても詳しく解説しますので、ぜひ実運送体制管理簿の理解を深める参考にしてください。
1.実運送体制管理簿とは?
流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律とあわせ、貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和6年法律第23号、以下改正法)が第213回通常国会で成立しました。
2024年5月15日に交付、2025年4月1日施行となったこの改正法のうち、トラック事業者の取引に対する規制措置の概要は次のようになっています。
- 元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付け。
- 荷主・トラック事業者・利用運送事業者に対し、運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した書面による交付等を義務付け。
- トラック事業者・利用運送事業者に対し、他の事業者の運送の利用(=下請けに出す行為)の適正化について努力義務を課すとともに、一定規模以上の事業者に対し、当該適正化に関する管理規程の作成、責任者の選任を義務付け。
参考:改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について【国土交通省】
これを踏まえて、荷主(真荷主)から運送の委託を受けた元請け事業者に対し、実運送体制管理簿の作成が必要となりました。
この改正法の背景には、運送業界における下記3つの課題があります。
- ドライバー不足の深刻化
- 標準的運賃の収受の難しさ
- 多重下請け構造の問題
これらは長年運送業界が抱えてきた課題であり、実運送体制管理簿の義務化を含む改正法によって、これらの解決が期待されます。
下記でこれらの課題について詳しく解説いたします。
物流業界の2024年問題とドライバー不足の深刻化
物流業界を取り巻く状況は、近年大きく変化しています。
2024年問題、改善基準告示の改正対応、ドライバー不足など、多くの課題が山積みになっています。特に、2024年から施行された時間外労働時間960時間上限規制は、業界に大きな影響を与えています。
そのため、従来の「長時間労働で稼ぐ」という考え方を見直し、効率的な物流体制への転換が急務となっています。
しかし、労働時間短縮による収入減は、ドライバーの離職率増加に繋がり、深刻な人手不足をさらに悪化させる可能性も孕んでいます。
標準的運賃の収受の難しさ
物流業界において、運賃交渉は重要な課題として認識されています。
調査結果によると、全日本トラック協会の会員事業者全体の71%が運賃交渉を実施しており、そのうち75%は値上げに成功しています。これは、事業者が積極的に交渉することで、収益改善を実現していることを示唆しています。
しかし一方で、価格交渉を行っていない事業者が全体の29%存在し、さらには希望額を回収できなかったり、交渉に応じない荷主が16%近くいることも明らかになりました。
参考:標準的運賃に係る実態調査結果の概要(令和5年度)【国土交通省】
運賃交渉は事業者の収益確保に不可欠な要素である一方で、希望額全額の収受成功率は必ずしも高いわけではありません。交渉を成功させるためには、裏付けとなるデータの準備と戦略的な交渉術が求められます。また、交渉に応じない荷主への対応策も重要となります。
ドライバーの所得改善が必要な物流業界において、運賃交渉はますます重要な課題となるでしょう。事業者は、交渉の成功率を高めるための戦略を策定し、適切な対応を行う必要があります。
国土交通省がトラック運送業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブックを提供しているので、こちらを参考にしてみるのもいいかもしれません。
多重下請け構造が抱える問題点
物流業界において、元請けから複数の階層を経由して下請けに仕事が委託される「多重下請け構造」は、長年課題として指摘されてきました。
この構造は、取引の透明性を欠く要因となり、実際に荷物を運搬する事業者の収益悪化、ひいてはドライバーの労働環境の悪化につながるケースも少なくありません。
特に日本の物流業界においては、大手事業者が元請、その下に中規模事業者が一次下請け、さらに二次請け、三次請けと小規模な事業者が担っており、下層に行くにつれて価格交渉などが相対的に弱くなるという傾向があります。
参考:多重下請け構造の実態調査の結果等【国土交通省】
2.実運送体制管理簿がもたらす3つの変化
先述した課題を解消するための方法の一つとして実運送体制管理簿が義務化されるのですが、業界全体での意識の変革も必要になります。
まず、運送業務に関わるすべての人が、自社の業務が社会全体にどのように貢献しているかを認識し、責任感を持つことが重要です。その上で、安全、効率性、環境負荷低減を意識した行動を積極的に行うことが求められます。
運送業務全体の状況を可視化することで、問題点を早期に発見し改善することができます。これにより、より効率的な業務遂行が可能になります。
次に、改正法によっておこり得る変化を解説いたします。
物流の可視化と透明性向上による改善
物流における透明性向上は、サプライチェーン全体にわたる可視化を実現し、これまで不透明であった委託構造を改善する可能性を秘めています。
委託構造は下請けの階層が下に行くほど不透明になりやすく、荷主や元請け事業者も、何次請けの事業者が荷物を運んでいるか把握できていないということも珍しくありませんでした。これが実運送管理簿の義務化により、明確になると考えられています。
適正な運賃確保に向けた取り組み
運送業界における下請け手数料は、その構造上、ドライバーの所得改善を阻害する要因として認識されています。
業界では、下請け手数料の基準を明確化し、その割合を抑制することで、ドライバーの賃金改善につなげようとする動きが見られます。
特に、運賃の10%を基準とすることで、ドライバーの収入向上に貢献する効果が期待されます。
そうなると、複数の下請け業者を介する多重下請け構造では、運賃に積み重なる手数料によって、実運送会社から元請けに至るまで、最終的な運賃が大幅に増加することになります。
例えば、5次請けの場合、最終的に元請けに到達するまでに、運賃の50%もの手数料が上乗せされるケースも考えられます。
参考:一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃について【国土交通省】
荷主企業の責任強化と業界全体の健全化
実運送体制管理簿の作成・管理が義務化されることで、荷主は委託先の労働環境、法令遵守の状況や運賃の適正化について、より深く関与することが求められます。
これは、荷主が委託先の事業内容を詳細に把握し、安全性の確保や運賃の妥当性を確認する責任を負うことを意味します。
このような変化は、物流事業者の業務にも大きな影響を与える可能性があります。具体的には、ドライバーの労働環境の改善、法令遵守の徹底、業務プロセスの効率化、デジタルツールの導入など、さまざまな取り組みを推進する必要があると考えられます。
特に、デジタルツール導入による業務効率化は、多重下請け構造の透明化に繋がる可能性があり、物流業界全体の改善と健全な発展に貢献すると期待されます。
3.実運送体制管理簿のルール
実運送体制管理簿は、貨物の運送単位で作成する必要があり、以下の内容を記載する必要があります。
- 実運送事業者の商号または名称
- 貨物の内容および運送区間
- 実運送事業者の請負階層(一次請け、二次請けなど)
- その他国土交通省令で定める事項
参考:実運送体制管理簿の作成・情報通知の義務化【国土交通省】
実運送体制管理簿は、運送事業者が自社の運送体制を客観的に評価するための重要な材料です。
また、委託者や下請け事業者に対して、自社の運送体制の透明性を示す資料としても活用できます。
そのため、運送事業者は、実運送体制管理簿を正確に作成し、運送を完了した日から1年間保存する必要があります。
また、実運送体制管理簿はデジタルデータでの作成・保管も可とされています。
運送単位での作成が必要なので、紙による作成・管理は煩雑になることが簡単に予想できますし、デジタルデータなら保管スペースの削減、情報の検索や共有の容易さなど多くのメリットがあります。
また、既にある配車表などを活用することも認められていますので、これを機に、配送管理システムや車両管理システムを導入し、それによって実運送体制管理簿の作成も容易になるか検討しても良いでしょう。
実運送体制管理簿の注意点
元請事業者が作成する必要のある実運送体制管理簿ですが、必要項目以外にもいくつか注意点があります。
国土交通省の資料やQ&Aに照らし合わせ、自社が対象になるかどうかよく確認しましょう。
- 作成の対象となる貨物は1.5トン以上(実運送時点で何トンになるかではなく、真荷主から依頼があった重量)
- 真荷主からの貨物を全て元請事業者が運送した場合は作成義務対象外
- 災害その他緊急やむを得ない場合は作成義務対象外
- 元請事業者以外に作成義務はないが、必要事項を元請事業者に通知する義務がある
- 真荷主および元請事業者が、実運送事業者とその請負階層についてあらかじめ把握しており、下請構造が固定化されている場合は、運送ごとではなく一度作ればよい(ただし、下請構造や実運送事業者に変更がある場合や、最初に記録した運送から1年経過した場合は、作成する必要がある)
- 真荷主は元請け事業者に対し、閲覧請求ができる
参考:改正貨物自動車運送事業法について【国土交通省】
改正貨物自動車運送事業法Q&A【同】
下請け事業者も知っておくべきこと
運送業界における下請け構造は複雑で、情報伝達の正確性が課題となっています。特に、複数の下請け業者を介する際に、請負次数が正確に把握できるか懸念されます。
例えば、○○次請け事業者は、次の下請け業者に荷主の情報と自身の請負次数を申告する必要があります。
一方、実運送会社は元請けに対して、会社名、請負次数、荷物の内容、運送区間など、国土交通省で定められた事項を報告する必要があります。
この情報伝達の過程で、下請け事業者は次の下請け業者へ情報を伝達する必要があり、実運送会社は元請けから詳細な報告を求められます。
この情報伝達プロセスは、伝言ゲームのような複雑さによって混乱が生じやすくなり、情報が正確に把握できない状況が発生する懸念があります。
さらに、利用運送事業者(実運送事業者を利用して貨物を運送する事業者のこと。後述あり)が下請け先に混ざってしまう場合、情報伝達の複雑さが増し、混乱が生じやすくなります。
そのため、下請事業者であっても実運送体制管理簿について理解をし、正しい情報を報告するようにしましょう。
参考:実運送体制管理簿の作成・情報通知の義務化【国土交通省】
実運送体制管理簿の作成に違反した場合の罰則
現状管理簿の作成をしないことでの罰則はありませんが、トラック法第33条に基づいて行政処分の対象になる可能性があります。
また、実運送事業者から通知が来ない為に作成が出来なかった場合は、通知の不備の原因を発生させたものにその責任があるとして、その当該者に行政処分が行われる可能性があります。
逆に下請け構造の中にいて、上流の事業者より通知が来ない、受け取れないなどの場合は下請事業者に通知義務はなく、上流の事業者に対して行政処分が科される可能性があります。
これも改正貨物自動車運送事業法Q&Aに記載がありますので、よく確認しておきましょう。Q&Aは随時更新されます。
実運送体制管理簿に関連する用語解説
念の為になりますが、請負の数え方や、用語について簡単に解説します。
運送業界において、荷主と運送会社の間には、請負関係が存在します。
この関係は、元請け、一次請け、二次請け以降といった階層構造で表されます。
「元請け」は、荷主(真荷主)から直接仕事を受注した運送会社を指します。
一方、「一次請け」は、元請けから仕事を受注した運送会社、「二次請け以降」は一次請けから順次仕事を受注した運送会社です。
これらの階層関係は、「請負次数」と呼ばれます。
荷主は、荷物の運搬を依頼する依頼者です。
特に重要な用語として「真荷主」があります。
「真荷主」は、実際に荷物の運搬を依頼している最初の依頼者を指します。
例えば、荷主が、自社で運送手段を持たずに顧客から荷物を預かり、運送を手配する事業者(利用運送事業者)に運送を依頼する場合、その事業者が「真荷主」となります(下図パターン2が該当)。
出典:改正貨物自動車運送事業法について【国土交通省】
利用運送事業者は、自社で運送手段(トラックや倉庫など)を持たず、顧客から荷物を預かり、他の運送事業者に運送を委託する事業者を指します。
そのため、利用運送事業者は「元請け」とはならない場合が多いですが、荷主との契約主体となる場合もあります。
荷主が直接貨物運送事業者(実際に運送を行う会社)に依頼する場合は、荷主と真荷主(貨物の発送元)が同一となります(上図パターン1が該当)。
また、利用運送事業者と貨物運送事業者の両方の許可を持つ企業が下請けに運送を委託する際には、「実運送体制管理簿」の作成が必要です(上図パターン3が該当)。
「元請け」の下に「利用運送事業者」が介在する場合でも、請負次数(運送委託の段階数)はカウントされます。ただし、利用運送事業者自体は請負次数には含まれません。
参考:Q1.科目利用運送事業とは、どのような事業か。実運送事業と何が異なるのか。【国土交通省】
4.まとめ
本記事では、実運送体制管理簿の義務化の背景や、作成ルール、注意点などを解説しました。物流業界に携わる企業は、実運送体制管理簿の作成と適切な運用を行い、健全な物流体制の構築を目指しましょう。
株式会社キャリオットが提供する「Cariot」は、運転にまつわる情報を正確に取得・確認・管理できる車両動態管理システムです。
実運送体制管理簿の作成も、システムを活用することでより効率的に対応することが可能になるでしょう。
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※本記事は、実運送体制管理簿の一般的な情報を提供することを目的として作成されており、法律的な助言を構成するものではありません。参考にする場合は必ず最新の情報をご確認ください。また、本記事の内容は、公開時点での、国土交通省の公開情報や一般的に入手可能な情報に基づいて作成されていますが、その正確性、完全性、最新性についての保証をするものではありませんはいたしかねます。個別の事案や具体的な状況においては、必ず関係省庁の最新の法令やガイドラインをご確認いただくか、専門家(弁護士など)にご相談ください。本記事の利用によって生じた損害その他の結果について、弊社は一切の責任を負いかねます。本記事を参考にされる際は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。