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屋内で自分の位置を知る技術のあれこれ

ショッピングモール、オフィスビル、地下街、駅の通路、展示会場などの屋内で、スマホのマップアプリを立ち上げても正確な位置が表示されなくて困った経験は、誰もがお持ちでしょう。そんな場合、行き先案内板に頼ったり、人に聞いたりして目的地を探すしかありません。そして、どうしてこういう時にGPSは役に立たないの?と疑問が湧きませんか。

 

GPSは人工衛星の電波を受信するため、基本的には空が見える場所でしか動作しません。屋根があって空が見えないと、位置を測定できなくなります。

 

屋内や地下空間などGPSが使えない場合には、携帯電話の基地局位置情報や、Wi-Fiの基地局位置情報を活用して、ある程度の位置を表示してくれます。

 

残念ながら、この方法では精度の粗く、ビルの何階にいるかもわからず、歩行者のナビゲーションや周辺情報検索で実用になりません。また、お店の徒歩3分圏内まで来たらクーポンを送るようなピンポイント集客の仕組みや、工場や倉庫内部、病院などでの人の動きの効率化の仕組みにも精度が足りません。また、屋内火災時の避難や救助活動などでの確実な効果を期待できません。

 

求められているのは屋内での精度の高い測位技術です。

屋内測位は、これまでにいくつもの方法が提案され、実際に使われている事例も出てきています。ただ、まだどれも一長一短があり決め手に欠けます。測位精度が高いことに加えて、スマートフォンで広く利用できるには、以下の条件を満たす必要があります。

1)コストが低いこと

2)電力を消費しすぎないこと

3)世界共通で使えること

 

【屋内測位の手法】

それでは、屋内測位の代表的な手法を解説しましょう。

 

(1)Wi-Fi測位

複数のWi-Fi基地局からの電波強度の違いから演算して自己位置を算出する方式です。

既にAppleやGoogleがWi-Fi基地局の位置情報データベースを世界中に構築しており、iPhoneやAndroidのスマホで利用できます。ビルや地下街でもある程度実用になる自己位置がわかるのは、この仕組みのおかげです。

既に広く普及しているWi-Fiの仕組みを使うので、新たな投資が不要であることがメリットです。なお、一般的なWi-Fi基地局のカバーエリアは半径数十メートルであるため、精度の高い位置を得ようとした場合、基地局がかなりの密度で存在する必要があります。

 

(2)ビーコン測位

Bluetoothと同じ形式のビーコン発信器を屋内に設置して、スマホ側がBLE(Bluetooth Low Energy)と呼ばれる通信方式の信号強度判別を元に自己位置を推定します。Bluetoothの信号はせいぜい半径10メートル程度しか届かないため、発信器は密度高く設置する必要がある反面、Wi-Fiに比べると測位精度がぐっと高まります。

Appleはこの仕組みをiBeaconと呼んでいち早くiOS7に実装し、Androidも4.3以降実装したため、アプリ開発が行いやすくなっています。

参考:「iPhone、iPad、および iPod touch の iBeacon について

(3)歩行者自立航法

歩行者自立航法はPDR(Pedestrian Dead Reckoning)とも呼ばれ、現在の大半のスマホが備えている加速度、磁気、角速度などのセンサー機能を活用し、自分の移動方向と移動量を推定します。この方式の最大のメリットは、追加コストがかからないことです。ただし、スタート地点が正確な位置であったとしても、誤差が徐々に積み重なっていきます。このため、PDRのみで屋内測位を行うのではなく、他の方法と組み合わせるのが適しています。

 

(4)IMES測位

IMES(Indoor MEssaging System)は、準天頂衛星「みちびき」を開発する過程で、JAXAが民間企業と協力して発案した日本独自の技術です。

GPSと同じ方式(プロトコルと周波数)の発信器を屋内に設置することで、既存のスマホのGPS受信機能を流用して屋内と屋外をシームレスに位置測定できます。このため、利用者側にとってはコストが安価であるという特長があります。ただし、スマホ内蔵チップのファームウェアをIMES対応に更新する必要があり、スマホを生産している企業の大半が海外企業である点を考慮すると、普及のハードルはありそうです。

参照:IMESコンソーシアムのページ

 

 

(5)地磁気測位

建物などの構造物の鉄材から発生する地磁気のパターンを現地測定してデータベースを作成しておきます。それとスマホの地磁気センサーによって、自己位置を知る方法です。構造物に大きな変化がなければ、一度測定したデータは比較的安定しています。この方法は、設備投資が不要で、電気も使わないので、コスト面で有利です。

なお、鉄道車両や大型車両などの地磁気を乱す物体が近くにあると、パターンを間違って認識して位置が正確に測定できなくなる弱点もあります。

参考:「地磁気による高精度な屋内測位を実現、開発担当者に聞く「Yahoo!地図」新機能

 

 

【どれが有力か】

現在最も普及が進んでいるのはWi-Fi測位ですが、基地局の密度によっては誤差が数十メートル出てしまうことがあります。ビーコン測位はビーコン基地局をきめ細かく配置することで精度を高められますが、その設置運営コストをどうまかなうのかが悩ましいところです。自立航法は他の方法と組み合わせることで実用性が期待されます。IMES測位は、既存のスマートフォンでの利用ができるメリットがありますが、ビーコン測位と同様に基地局の設置運営コストの問題があります。地磁気測位はコスト面で有利ですが、地磁気の乱れへの対策が必要です。

 

実際には、それぞれの一長一短を相補いながら、複数の技術を組み合わせて屋内測位を実現する流れが有力視されています。

 

【進む実証実験】

屋内測位の普及の度合いですが、今年に入ってから実証実験が東京都内で行われるようになっています。

 

国土交通省は、2016年2月から3月にかけて、「東京駅周辺屋内外シームレス測位サービス実証実験」を行いました。

参考:「東京駅周辺~東銀座の地下街ダンジョンなどシームレスにナビ、国交省が試作Androidアプリ公開300個のBLEビーコン設置、Wi-Fi測位やPDRも組み合わせ

 

この実験は、16年11月末から提供地域を増やして現在実施中です。

参考:「国交省が歩行者向けナビアプリ実験、東京駅の地下街ダンジョンや新宿駅周辺・成田空港など屋内外をシームレスに

これらの記事を読む限りでは、技術面での完成度はそれなりに達成できている模様です。これが実際のサービスの中に採り入れられるかどうかは、技術やコスト面だけではなく、iOSやAndroidなどスマホのOSレベルでの対応を実現して、デファクトスタンダードへの道に持っていかなくてはなりません。グローバル規格化は日本が苦手とされる領域ですが、屋内測位は大変需要が高い分野です。今後の進捗に注目しましょう。

 

mori 森 亮 (Mori Toru) 氏 プロフィール
合同会社CUNEMO代表、OSGeo財団日本支部代表。Salesforce×地図の第一人者として知られる。株式会社アルプス社、米MapInfo Corporationを経て、株式会社オークニーを創業し、長きにわたり地図情報システム業界を牽引。現在は位置情報を初めとした様々な分野で事業支援を行われる一方、OSGeo財団の日本支部代表として、高品質のオープンソース地理空間ソフトウェアの支援と構築を推進している。

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